大判例

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名古屋高等裁判所 昭和56(ネ)124 知的財産裁判例

主 文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事 実

控訴代理人は「原判決を取消す。被控訴人は「香炉園」の商号を使用してお茶の

売買をしてはならない。被控訴人は「香炉園」と記載した店頭の看板を除去し、取

引上使用する一切の文書に「香炉園」の名称を使用してはならない。訴訟費用は第

一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は主文同旨

の判決を求めた。

当事者双方の主張及び証拠関係は、次のとおり付加するほか、原判決事実摘示と

同じであるからこれを引用する。

(控訴人の主張)

(一) 商法二〇条一項は、商号の登記をした者は不正の競争の目的をもつて同一

又は類似の商号を使用する者に対してその使用の差止めを請求することができる旨

規定し、同条二項は、他人の登記した商号を使用する者は不正の競争の目的をもつ

てこれを使用するものと推定する旨定めているのであるから、本件においても、被

控訴人に不正の競争の目的の存したことが右規定により当然に推定されるのであ

る。

のみならず、被控訴人は従来控訴会社の代表取締役の職務代行者として同会社の

実権を掌握していた者であり、その地位を喪失した後に引き続き控訴会社の商号を

使用し、従前の得意先を対象として営業をしているのであるから、被控訴人に不正

競争の目的があることは明らかというべきである。

(二) 控訴人は本件差止請求を認容する判決が確定すれば本格的にお茶の卸販売

を開始するつもりであるが、それまでの間は被控訴人との間に取引上の混乱を生じ

たり、感情的対立が激化するのを避けるため、小売だけにとどめ卸売を差控えてき

たのである。そして、このように控訴人の営業の開始が将来であるとしても、商号

の使用の差止めを請求することが許されると解すべきである。もし、当該営業につ

いて事実上の競争関係が存在することが必要であるとすれば、控訴人の営業の開始

により被控訴人の営業との間に無用の混乱を生じ、法秩序の紊乱を招くことになる

のであつて、とうてい是認できない見解というべきである。

(三) 被控訴人は前記のとおり控訴会社の代表取締役の職務代行者であつたが、

その後右地位を喪失したものである。そして、右地位を喪失した以後は被控訴人に

おいて控訴会社に属した一切の権利義務を同会社に引渡す義務があり、控訴会社の

商号も右引渡しの対象となることは明らかである。そうすると、被控訴人が右義務

を履行することなく、控訴会社の商号を使用することは許されないというべきであ

る。

(被控訴人の主張)

控訴人の右主張はいずれも争う。

(証拠) (省略)

理 由

当裁判所も原審と同じく、控訴人の本訴請求は理由がないから、これを棄却すべ

きものと判断する。その理由は、次のとおり付加するほか、原判決理由に説示する

ところと同じであるから、これを引用する。

(一) 控訴人の当審における前記主張にかんがみ、当審において援用した前記証

拠を併せて審究するも、前記認定・判断(原判決理由引用)を動かすに足りない。

(二) なお、控訴人は、被控訴人が控訴会社の代表取締役職務代行者の地位を喪

失したのにかかわらず、控訴会社の商号を引渡すべき義務を履行することなく、右

商号を使用することは許されない旨主張する。

しかしながら、被控訴人に控訴人主張のごとき債務不履行が存する事実は本件に

おけるあらゆる証拠によるもこれを認めるに足りないのである。のみならず、控訴

人が被控訴人に対し商法二〇条に基づき本件商号使用の差止を請求することが許さ

れるか否かは同条の定めるところによつてこれを決すべきであるところ、前記認

定・説示(原判決理由引用)したところによつて明らかなごとく、控訴人は右差止

を請求する権利を有しないものというべきである。控訴人の右主張は採用のかぎり

でない。

よつて、右と同旨に出た原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないからこれ

を棄却することとし、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して、主

文のとおり判決する。

(裁判官 黒木美朝 川端浩 松村恒)

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